コロナ不況から家族と経営を守るためには

コロナ不況から家族と経営を守る

目次


一. 私が弁護士になった平成14年当時は日本の自殺者数が3万人を超えていました

自殺者数の推移

 平成10年から平成23年までの13年間、日本では自殺者が3万人を超えていました。その13年間に、自殺で亡くなった方の数は、40万人を超えます。

 40万人と言われてもピンときません。多いのか少ないのか、よくわかりませんが、私の出身地の豊中市の人口は約40万人ですので、13年間で豊中市のすべての人がいなくなるのと同じです。そう思ったときに、背筋が寒くなりました。大変な数の人が自殺で亡くなっていた時代です。

 自殺の原因の第一位は病気、第二位は経営不振や経済的困窮と言われています。

 当時は、整理回収機構が設立され、銀行の不良債権の処理が急ピッチで行われていた時代であり、法人破産件数も多い時代でした。当時は、年間2万件弱の会社が破産申し立てをされていました。令和元年時点で年間8000件程度と言われていますので、平成14年当時は非常に企業の破産件数が多かった時代といえます。

 そんな時代に弁護士になり、私の当時の仕事の多くは破産申立事件でした。

 新人弁護士時代は、同期の弁護士とお互いの事務所での取り扱い案件の内容について、互いに情報交換することが多かったですが、私の仕事の多くが破産事件であることを同期の弁護士に言うと、決まって、「お前は、サンドイッチ弁護士やな。」とよく言われていました。

 サンドイッチ弁護士とは、破産で食べている、挟んで食べている、はさんでたべている、という意味です。

 破産という、後ろ向きで暗い仕事ばかりしているという意味で馬鹿にしたような呼び方だと感じました。

 ただ、破産事件から多くのことを学び、自分の目指すべき弁護士像を模索するきっかけとなったので、今となっては、サンドイッチ弁護士という呼ばれ方は大変気に入っています(笑)。

 サンドイッチ弁護士時代に、破産の相談に来る経営者の多くが鬱っぽいと感じました。鬱は自殺する病気であることも知りました。

 自殺の原因の第一位は病気、第二位は経営不振や経済的困窮と言いましたが、実は、経済的困窮によるストレスが鬱などの精神疾患に罹患する切っ掛けになりますので、病気と経済的不振は一体だと思っています。

 破産に至る過程で、多くのストレス下に長期間さらされることで、鬱となり、自殺の危険性が高まるということも感じました。

 精神疾患の初期の段階では、多くの方が一定の兆候が現れます。それは、不眠です。不眠の症状が持続すると鬱などの精神疾患に罹患する可能性が高まると思いますので、今でも破産事件の相談時には必ず、「よく眠れていますか?」と質問するようにしています。

二. 破産の原因とは

1. 破産会社の経営者の特徴として思い当たることを書いてみました

リースで高級車に乗っている。(見栄っ張り)
破産の打ち合わせ中に、本題に入る前に、よかった時の話を長々する。(現実逃避)
裏道はないかと聞く人が多い。(王道よりも邪道)
決算書が読めない、というか、見たことがない。(勉強不足)
税金を払いたくない。(近視眼)
(節税を勧める)税理士に会計のことは任せていたなどという。(他力本願)
自殺を考えたことがある。(孤独)

 書いてみて気が付きましたが、実は自分自身にも当てはまることが割とあるということです(笑)。

 さすがに、邪道を選択することはないと思いますが、見栄っ張りであったり、現実逃避したくなったり、勉強が面倒と思ったり、ついつい近視眼となったり、他人に頼ってしまうことは、誰にでもあることだと思います。

 そういう意味では、破産するかどうかは、運次第と思われるかもしれません。
ただし、破産会社の決算書を見ると明確に破産に至る過程がわかります。

2. 破産会社の現預金の推移

破産会社の現預金の推移

 破産の原因は、支払い不能です。債務を弁済できない状態となった場合は、破産法上の要件を満たすことになります。

 破産する会社の現預金推移を見てみると3年前から現預金額が減少しています。私の取り扱った案件では、ほぼ例外はありません。

 上の線は、3年前から30%ずつ現預金が減少していることを示します。下の線は2年前にリスケジュールを行い、その後も現預金残高が減少していることを示します。

 平成21年の中小企業金融円滑化法成立以降(現在は廃止)、リスケジュールがやりやすくなりました。リスケジュールとは、借入元金の返済を一部又は全部停止し、借入利息だけを支払うというものです。

 驚くべきことに、この現預金の推移について、3年前から現預金が減少していることを、破産会社の経営者は、全く気が付いていなかったのです。ここ半年ぐらいの業績の悪化や取引先の倒産等が、自社が破産に至った原因であると考えてはいますが、実は、いつ潰れてもおかしくない経営状態であったことについては、気が付いていなかったということです。

 そして、更に驚くべきことに、破産会社の現預金が3年前から減少していることに、その破産会社の顧問税理士も気が付いていないのです。というよりも、そもそも顧問先の現預金残高になんて興味すらないのです。

 私は、破産会社の経営者に対し、「3年前から現預金が減少していることについて、顧問税理士は何か言っていませんでしたか?」と質問するようにしています。これに対して、「あの税理士は、結局、何もしてくれなかった。何も言ってくれなかった。顧問料が払えなくなると、電話にも出ない。」などと言う返答が返ってきます。

 私は、弁護士になる前は、経営者なら決算書は読めると思っていましたし、経営計画や経営理念を持っていると思っていましたが、実際には、そんな経営者はほとんどいないことを知りました。

 また、税理士は、税金の計算や決算書の作成は当然にするとして、それ以外にも、経営についてもアドバイスをする仕事と思っていました。

 しかし、実際には、顧客の経営に関心を持つ税理士などほとんどいない、ということも知りました。

 私の知る限りで想像する一般的な税理士というのは、
『正確な帳簿を作成し、正確な申告書を作成し、遅滞なく納税させる。納税額は少なければ少ないほど、経営者は喜ぶので、なるべく納税額を少なくする方法を提案する。保険も売って副収入も得たい。』
という考え方です。

 しかし、私は、『会社を良くしようとする税理士』でありたいし、弁護士でありたいと思っています。

 私は、『現預金が減少する経営は悪い経営。現預金が増える経営はよい経営。納税額が多ければ多いほど、現預金額が増加するので、節税などしてはいけない。』 
と、確信をもって顧問先の経営者に伝えています。

 また、セミナーなどで、税理士や会計士に対しても、同じ話をしています。多くの税理士らの反応は、私の話に対しては否定的ですが、中には、

・私は会社を良くしようとする税理士でありたいです!
・資金繰り表作成は、必須だと思っています。
・会社の存続には節税よりも札束が大事です。
・セミナー非常に勉強になりました😊‼
・将来の人口オーナス期に良き未来を残せるよう、私も頑張ります‼
・税理士の責任は重大、本当にそうだと思いました。

などと、心から励ましてして頂けるメッセージを頂くこともあります。

『会社を良くしようとする税理士』仲間が、徐々に増えつつあります。とても嬉しいことです。

 現在、税理士は7万人程度いるようですが、その内1割の7000人でも、『会社を良くしようとする税理士』となれば、今後の日本が人口減少でマーケットが縮小しようとも、100年企業が増え続ける国になると思っています。

三. 当たり前のことを当たり前にやること

1. 二宮尊徳翁

 報徳思想で有名な日本を代表する哲学者の二宮尊徳翁は、『分度』(入るものよりも、出ていくものが多ければ、いずれ無くなること)と『推譲』(余ったものは、他人に譲り、将来に譲り、公に譲る)と言っています。

 また、四書五経の『礼記』を引用して、『国、九年の蓄えなきを不足といい、六年の蓄えなきを急といい、三年の蓄えなきを国その国にあらず』とも言っています。

 報徳思想を私なりにわかりやすく解釈すると、誰が見ても、深く考えなくても、子供でも、誰もがそれは正しい、良い、と感じること、それを天道といって、天道に従って生きることを『至誠』といい、『勤労』、『分度』、『推譲』が大切であると説かれていると思います。

 私は、弁護士も税理士もやっており、仕事柄か、普段からごちゃごちゃと理屈でものを考える傾向があるように思っていましたが、二宮尊徳翁の報徳思想を知った時に、こん棒で頭を殴られて、『お前はアホか』と言われたような気がしました。

 今では、まずは、理屈でものを考えないように注意して、原理原則や何が当たり前であるか、あるべき姿とは何かを考えるようになりました。

2. 節税と『分度』

 『分度』は、入るものよりも、出ていくものが多ければ、いずれ無くなることですが、当たり前すぎて、当然に普段から意識しているはずと思い込んでいますが、ごちゃごちゃと理屈を振り回したり、近視眼的な損得勘定で、真逆の行動を取っていることがあります。

 節税は、正にこの『分度』に反しているのです。節税は、決算書上の税引前の利益を少なくすることで、課税額を減らし、結果として、税金の納付額を下げることです。当然に会社の現預金残高を減らします。現預金残高を減らすことなく、税金の納付額を少なくするのは、税額控除ですが、それは該当する場合は活用して当然のことなので、節税などとは言いません。

 この節税は、目先の税金の納付を減らすために、せっかく残った現預金残高を減らすことになるので、会社の現預金残高が減って、何か不測の事態が起これば、支払い不能の状態となるという極めて危険な経営状態となります。

 これを積極的に経営者に勧める税理士は、会社を悪くする税理士といえます。また、節税を積極的に行おうとする経営者は、目先の税金納付額のことだけを考える近視眼的な悪い経営者といえます。

 たとえば、桶に穴が開いていて、少しずつ水が漏れているとします。漏れている水よりも多くの水を桶に足さない限り、いずれ桶の中身はなくなってしまいます。それは、誰にとっても当たり前のことです。

 わざわざ桶の穴を大きくして、積極的に桶の水をより減らすことは愚かなことです。色々な小理屈や勉強不足の結果、それを積極的にやっているのが、節税税理士と節税経営者です。

 節税税理士と節税経営者は、桶の水がなくならなければいいので、ギリギリ水が残っていればそれで良し、と考えていると思います。

 確かに、ギリギリ水が残っていれば、桶の中にはまだ水があり、会社は潰れません。

 しかし、急に状況が変わった時に、すぐに水がなくなる危険性が非常に高いということを忘れていると思います。

 取引先の売掛金の回収が遅れたり、取引先が倒産したりすれば、すぐに桶の水がなくなり、自分の会社も倒産となります。倒産に至った段階で、節税経営者が節税税理士に恨みごとを言ったとしても、もう手遅れです。

 節税税理士にとっては、関与先が倒産しようと知ったこっちゃありませんので、『実力のない会社がまた一つなくなっただけだ、新規で顧問先を増やそう。』としか考えません。

 2008年に起こったリーマンショックは、100年に一度しか来ない、などとふざけたことを言っていた経営者も今回のコロナウイルスで考え方を改めざるを得なくなったと思います。

 日本は、現在、40年かけて、人口が30%以上も減少するという大きな下り坂を降り始めたところです。

 『分度』に反する経営を行い、節税を積極的に行う節税経営者と節税を積極的に勧める節税税理士は、近いうちに必ず淘汰されることになると思います。

3.『推譲』

 『推譲』とは、余ったものは、他人に譲り、将来に譲り、公に譲るということです。

 得たものを独り占めにすることは、『推譲』の真逆です。会社で稼いだ現預金を無駄遣いし、多額の接待交際費を費消する経営者を見ると近い将来、社員から見放されて途方に暮れることになるんだろうと心配になります。

 4000万円の利益が出たので、節税のためと言って、2500万円のプレミア付きのポルシェを買った経営者がいました。自分がポルシェに乗ることで、従業員が『俺もこうなりたい。』と思って励みになるはずだ、などと言うのだと思います。また、税金を納めても、何に使われるかわからない。無駄遣いされるのであれば、自分で使いたいので税金は払いたくない、などとも言うのだと思います。

 得た利益を『他人に譲り、将来に譲り、公に譲る』とは、『きちんと社員に給与を支払うこと、将来の不測の事態に備えて、自分や家族、社員のために蓄えること、日本をもっといい国にするために税金を納めること』です。

 残業代を支払わず、有給休暇を取らせず、将来を考えずに交際費や高級車に浪費し、自分のことしか考えずに税金を支払わない者のために、社員が本気で仕事し、その会社の発展のために奮闘努力するはずがありません。また、我々が車に乗って走っている道路も、我々のご先祖様が納めた税金で作られていることを忘れている経営者のために、誰が助けの手を差し伸べるでしょうか。

 日本の国は、国民が納める税金で成り立っているのは当たり前のことです。どこかの国と違って、夜に路地裏で強盗に襲われることがめったにない治安の安定した住みやすい国であるのは、また、コンビニでお札を差し出すと照明で透かしの有無を確認されることのない国であるのは、また、寡婦家庭に生まれても大学まで進学できる国であるのは、ご先祖様や現在の国民が税金を納めてきたからです。日本が素晴らしい国であるのは、ご先祖様や現在の多くの国民が素晴らしいからです。そんな素晴らしい国で禄を食みながら、己のことしか考えない輩はこの国から出て行っていただきたいです。

 私は、残業代や税金の支払いを渋る経営者に対して、『社員に残業代を払わないのであれば、あんたが24時間寝ずに死ぬまで働け。』、『税金を支払いたくないのであれば、日本で息をするな。道路使うな。私道を走れ。』と言ってしまいます。

 不思議ですが、それを経営者に言っても、今まで顧問契約を解除されたことは一度もありません。たぶん、誰にとっても正しいことを言っていると考えなくてもわかるから、また、当たり前のことを当たり前に言っていると自然に感じるからだと思います。

4.『分度』と『推譲』による経営

 『分度』と『推譲』を中小企業の経営に置き直すと

① 現預金額の現状把握と資金繰り表による将来予測により経営状態を把握することが必要である(現預金残高が命)。

 資金繰り表については、後で詳しく説明します。

② 売上ではなく、一つ一つの商品やサービスの粗利額の把握と単価を上げる努力が重要(積小為大。商品一つ一つの粗利額が現預金残高の基になる)である。

 資金繰り表を作成すると現在の粗利総額から、固定費、借入返済や設備資金、中間納税や期末税金を払っていることがわかります。

粗利総額 > 固定費+借り入れ返済など
であれば、現預金額が減少する悪い経営であることがわかります。まずは、
粗利総額 > 固定費+借り入れ返済など
となるために必要な粗利総額を算出します。

 必要な粗利総額は、商品一つ当たりの平均粗利×販売数量で構成されます。

 たくさん売ることができれば、商品一つ当たりの粗利は低くてもかまいませんが、販売数量が少なければ、商品一つ当たりの粗利は高く設定しなければなりません。

 当たり前のことですが、商品一つ当たりの粗利額をすぐに回答できない経営者がほとんどです。だから何個売ればいいのわからないのです。

 私が、居酒屋の顧問先の店舗に行って、焼き鳥盛り合わせの値段を訊いたら、経営者は、すぐに回答できます。しかし、一皿の粗利を回答できる経営者はほぼおりません。

 その一つ一つの粗利が、月次の総粗利、年次の総粗利になりますが、一つ一つの商品の粗利を知らずして、月次や年次の総粗利をコントロールすること、すなわち経営することなど、到底できないのです。

③ 節税(節税保険、リゾートホテルの会員権、収益不動産の購入等)は現預金を減らすので、してはいけない。

 決算書や試算表で税引前の利益を見ると節税したくなるので、税引き前利益は見ないようにしましょう。

④ 税金をたくさん払えば、結果的に多くの金が残るので、できるだけたくさんの税金を支払うこと。

 税金の納付額は、税率で決まります。税率は決まっています。税率30%とすると、70万円を残すには30万円の税金を支払う、700万円を残すには300万円の税金を支払うことになります。

 7000万円残すには3000万円の税金を支払うことになります。7000万円を残したいのに、税金を30万円だけ払うということは、あり得ないのです。私は、顧問先に納税額目標を立てるように勧めています。納税額3000万円と設定して、一生懸命経営されている経営者の方もおられます。素晴らしい経営者であると心から尊敬しています。

⑤ 3年売上がなくても社員や家族を3年間養えるだけの現預金残高を目指す。
 ちなみに、私の事務所は2年しか持ちません。偉そうなことを言っていても、なかなか二宮尊徳翁の言うとおりに経営することは大変です(笑)。ただし、ゆくゆくは9年の貯えをしたいと思っています。

 騙されたと思って、一度計算してみてください。結構経営に自信のある経営者も計算してみて半年しか持たないことを知って、もっと努力しないといけないと気が付く人が多いです。

 ということになります。

四. 資金繰り表

(★急ぎの方はこちらからご覧ください。)

1. 資金繰り表作成の目的

 前置きが長すぎましたが、資金繰り表の話をします。資金繰り表の目的は、

現在の現預金残の把握
将来現預金残高の予測
現預金残高が減少している悪い経営になっていないかの確認
現預金残高を増やすための総粗利額の把握
個々の商品についてこれ以上安い価格では必要な粗利が得られないことの確認(例えば、食品製造工場:商品一つ毎の平均粗利単価@○○円以下は不可。人工出し建設業:人工一人当たりの日当単価@〇万○〇○○円以下は不可など。)
必要な販売数量の把握 粗利@×何個売る必要があるのかの把握
節税が会社を悪くすることを実感する。

2. 出来上がったら、以下の点を確認してください。

ア)現金が減っている場合
後何ヶ月であなたの会社は倒産することになるか
それを6ヶ月、12ヶ月伸ばすにはどうしたらいいか
現金が減らないようにするには、どれぐらいの粗利が必要か
商品一つ当たりいくらの粗利が必要か
粗利を確保するために必要な販売数量は何個か

イ)現金が増えている場合
コロナが長引いて3年売上がなくても固定費を賄うにはどれぐらいの現預金残高が必要か、それにはいくら不足しているか。
機会喪失しないため(チャンスが来た時にホームランを打つため)に備えておくべき現預金額はいくら必要か。
 例えば、レース用高級自転車の部品製造業の場合:不況の影響で同業者が倒産し、発注者からの受注が急増した場合に必要な設備資金はいくら必要であるか。
 また、不動産開発業者の場合:不動産の価格が低下した時に不動産を購入し、それを必要な期間保有して、値が上がった段階で売却するまでに必要な資金はいくら必要であるか。

3. 資金繰り表の種類

月次資金繰り表(月ごとにつける方式)
五十日資金繰り表(5日ごとにつける方式)
日繰り表(毎日つける方式)

 の3種類があります。
 私の事務所で経営指導している顧問先が実際に作成した資金繰り表を基に解説したいと思います。

4. ①月次資金繰り表(月ごとにつける方式)(1)社長作成

月次資金繰り表

見にくい場合は、ダウンロードしてください。

 これは食品製造工場の月次の資金繰り表です。

 すべての情報が現金ベースで記載されています。

 5月までが実績で、6月以降が予測です。6月以降は社長が目標も含めて作成したものです。

 コロナの影響で、4月と5月は売上が激減しています。それが6月以降回復し、10月以降は素晴らしい額の売上計画です。ただし、詳しく聞いてみると、売り上げの根拠は明確ではありません。

 現金収入の下の行に仕入金額と売上に対する仕入れ額の比率が記載されています。

 現金収入から、現金による仕入金額を引くとその差額が現金の粗利額です。

 その粗利額から、固定費等の支出を賄います。予定納税の額も記載します。

 この会社は工場を移設しましたので、その費用として臨時の支出が記載されています。決算書では、資産で計上して減価償却しますが、資金繰り表ではそんな処理は関係ありません。そのまま、現金支出額を書いていきます。

 表の中段当たりの残金⑥は、粗利から固定費等の支出を支払った後の残額の記載です。

 わかりにくいですが、この会社の通常月の固定費の支出は1850万円程度です(8月、10月、11月の⑤を参照)。

 そこから、借入金の返済を行います。設備資金としての借入やコロナ融資の借入金額の記載もあります。

 この会社の通常月の借り入れ返済額は約600万円であることがわかります(財務収支計⑦の8月から12月参照)。

 一番下の行の翌月繰越金⑧が月末の現預金残高となります。

 一番下の現預金推移を見ていくと6月に1億円以上ある現預金が12月には1億2350万円ぐらいに増えています。これは非常にいい経営であると言えます。

 月次の固定費等が約1850万円であり、月次の借入返済金額が約600万円ですので、この会社の月次に必要な現金粗利額は2450万円です。

 売上に対する仕入れの割合は約38%(粗利率は62%)として、必要な売り上げは、約4000万円(2450万円÷0.62)となります。

 税金の計算予測も必要です。もっとも、前年実績や税理士の予測などを訊いて多めに入れてもいいと思います。資金繰り表を作成して、税金の予測もする専用のソフトも売っていますが、経営者の人は使いこなせないので必要ありません。

 社長が作成した試算表を見ると、10月以降は売上が5000万円なので、現預金残高は増えているという計算になります。

 ところが、本当にそんな売り上げが確保できるのか、疑わしいです。

 そこで、現時点で確実に見込める売上金額で修正したのが次の資金繰り表です。

5. ①月次資金繰り表(月ごとにつける方式)(2)修正版

①月次資金繰り表修正版

見にくい場合は、ダウンロードしてください。

 8月以降の売上を2200万円に修正すると月次の現金粗利は1530万円弱となり、固定支出の1850万円より、毎月約300万円も少なくなります。経営をすればするほど、月次で現預金が300万円も減少することになります。

 これに借入返済の月額600万円が加わると、毎月900万円の現預金が減少することになります。

 12月末の現預金残高は、約6200万円です。

 ここから毎月900万円ずつ減少していけば、この会社は6.8か月後(6200万円÷900万円=6.8)に破産することになります。

 コロナ融資の据え置き期間が終わる前に破産するという予測です。

6. 対策の検討

 現預金がなくなれば、破産するしかありませんので、なくならないようにする方法を考える必要があります。

 一番先に考えることは何でしょうか?

 リスケジュールですか?まだ、早いです。

① もちろん、追加融資です。
 1000万円でもいいので、とりあえず追加で借り入れできないか考えます。公庫は既に枠がいっぱい。信金からも設備資金の融資を受けて、コロナ融資も使い切ったと社長は言います。
 7月の欄を見ると公庫からの3000万円の借り入れ予定がありますが、補正予算が通り、融資枠が4000万円になる可能性がありますので、さっそく相談に行ってもらうように助言しました。
 また、商工中金にはまだ相談に行っていないので、公庫と同時並行で相談に行くように助言しました。

② 次に、リスケジュールの検討です。
 月額600万円の元金返済がなくなれば、かなり楽になります。それがなくなれば、固定費等の支出の300万円減少だけになります。
 そうなれば、12月末時点の現預金残高6200万円は、まだ20か月も持つことになります(6200万円÷300万円=20.6ヶ月)。
 13.8ヶ月も寿命が延びました。
 20か月の間に、月次の粗利が、2450万円(売上4000万円)以上になれば会社は存続します。

③ 商品一つ当たりの粗利単価の決定と販売数量の決定
 そのために、商品の最低の粗利単価と販売数を決めて、なるべく少ない販売数量で2450万円の粗利を獲得する方法を検討することになります。
 この会社の場合は、商品の一つ当たりの平均粗利単価を250円と設定し、月に9万8000個の製造を目標として設定しました。
 それには営業担当の増員や新規顧客の開拓、新商品の開発や既存顧客への新商品の提案などやらなければならないことが山ほどあります。
 しかし、それを6ヶ月で行うことは物理的に無理でも、遅くとも20か月あれば達成する自信はあると社長は言っていました。
 それまで、営業担当は社長一人でしたが、主要な幹部も営業を行うことになり、総勢5名で新規顧客の開拓等の営業活動を行うことになりました。
 資金繰り表を社員全員で共有し、背水の陣を敷いて、社員一丸となって総力で戦うと社長は決意されました。

7. ②五十日資金繰り表(5日ごとにつける方式)

◆ 五十日資金繰り表 5日

五十日資金繰り表5日

◆ 五十日資金繰り表 10日

五十日資金繰り表10日

◆ 五十日資金繰り表 15日

五十日資金繰り表15日

◆ 五十日資金繰り表 20日

五十日資金繰り表20日

◆ 五十日資金繰り表 25日

五十日資金繰り表25日

◆ 五十日資金繰り表 末

五十日資金繰り表 末

見にくい場合は、ダウンロードしてください。

 この経営者は法人を4つも持っています。運送業の外関連する業種の3社です。

 各法人の決算書を見てもわからないとのことで、4つの法人を全部まとめて、資金繰りを管理しています。

 五十日資金繰り表は、複数の法人の現預金残高をまとめて管理するのに非常に便利です。

 資金繰り表は将来の予測や予定を書いていますが、実際に収入があったり支出があれば、黄色のマーカーで塗っています。予測が外れて収入や支出がなかった場合は、数字を欄外に移すなどして、現実の現預金の収入や支出をアップデートしていきます。

 税理士の中には、『資金繰り表の作成までは必要ない。月次の試算表(決算書の基になる月次バージョンの決算書)があれば、ある程度の将来予測はできる。』という方もおられますが、それは絶対に不可能です。

 4つの会社の試算表を並べてみても、各会社の月末の現預金残高しかわからず、月初から月末までの現預金推移まではわかりません。試算表を使って月末の現預金残高を集計したとしても、会社の現預金残高の実態を把握することなどできないのです。

◆この会社4つ全部の5日ごとの現預金残高を一覧表にしたのが下の図です。

日付(令和2年4月)現預金残高(円)
5日7,881,515
10日5,261,442
15日7,090,264
20日5,687,050
25日2,218,950
30日9,491,800

 試算表では月末の949万1800円しか把握できませんが、資金繰り表であれば、25日の給料日に4社全部の現預金残高が221万8950円しかないことがわかります。

 4つの会社の全部の預金残高がたった221万円しかないことを把握できない資産表は現預金残高の管理方法としてはあまり役に立ちません。

 この4つの会社の25日時点での現預金残高は、たったの221万円しかありません。これをいかに上げていくのかが課題になります。

 コロナの影響が気になりましたが、幸い1社について、5月に3000万円のコロナ特別融資を受けることができましたので、6月25日時点の現預金残高は2300万円となりました。今後も2社についてコロナ融資を申しこむ予定なので、7月末頃には更に預金残高が増える予定です。

 社長は、『コロナのおかげで、追加で融資を受けることができて助かった。良かった。良かった。』と一安心です。

 でも、私は気になりました。

 4月25日に残高が221万円だった。5月に3000万円の融資を受けた。6月25日の預金残高は2300万円しかない。

 ということは、単純に計算すれば、3000万円の融資がなかったとすれば、6月25日の現預金残高はマイナス921万ということになります。

 非常にきわどかったと言えるかもしれません。

 今後は、なるべく多くの融資を受けつつ、同時に4社全部の経営体質を改善するために、商品ごとの粗利単価と販売数量を決定し、営業計画を立てて、着実に実行していく必要がありますとアドバイスしました。

 また、五十日資金繰り表だけでなく各法人の月次の試算表も作成し、法人毎の必要粗利と固定費等を算出する必要があることもアドバイスしました。

 また、『のんびりしたまま据え置き期間が経過すれば、そこから本当の返済地獄が始まりますよ。』と少々発破もかけておきました(笑)。

8. ③日繰り表(毎日つける方式)について

日繰り表(毎日つける方式)について

見にくい場合は、ダウンロードしてください。

 この資金繰り表は、毎日つけて頂いたものです。平成28年頃のものです。

 数か月前にこの月の現預金がなくなることになることが予想されましたので、公庫から追加融資を取り付けて、この月の翌月にリスケジュールをしました。

 この月の現預金はマイナスになりましたが、それは一時的なものであり、額も比較的少額であったこと、翌月には売掛入金がある程度見込まれたことから、一時的に役員から法人への貸付で乗り切り、追加融資の1000万円も成功したことで、何とか延命できました。

 この会社は、建設業でしたが、人工一人当たりの単価を1日1万4500円と設定し、目標人工数を現場に入れて常用日当を稼ぎ出すという目標を立てました。

 過去の実績を見ると、ドンドン単価が下がってきており、平均単価が1万3000円程度となっており、元請けからの減額要求に応じたことが原因で、現預金残高の減少を招いていました。

 やはり、単価をあげるしか生き延びる方法はありませんでした。

 社長は、1万4500円以下のオファーをすべて断りました。現預金残高が少ない時に新たな仕事の依頼を断ることは大変勇気がいりますが、それを実行されました。ある会社からの1万4500円を下回るオファーを断ったところ、1週間後に同じ会社から1万4500円以上の額で了承するので契約してほしいと依頼があったそうです。

 社長は、単価なんて上げることはできないと思い込んでいただけで、これをきっかけにこちらの提案でも十分に顧客がとれることを実感したそうです。

 目標単価で仕事が取れ始めれば、比較的高額の給料で人材募集ができますので、広告を打って人材募集をしたところ、徐々に人数を確保することができ、業績が回復し始めました。

 令和2年度には、ある程度の業績が回復し、コロナの影響も受けましたが、リスケジュールを正常化し、新たに追加融資に成功しました。

 リスケジュール中の会社であってもリスケジュールをやめて通常返済に戻すことでコロナ融資を受けることが出来ます。通常返済に戻す支援を積極的にしてくれる銀行もあります。

9. 2種類の資金繰り表を作成する

 資金繰り表を作成する場合は、月次の資金繰り表と五十日か毎日バージョンのいずれかの2種類を付けるようにしてください。

 月次の資金繰り表は、粗利や固定費と新規の借入額や月々の借入返済額が把握しやすいので、必ず作成してほしいと思います。月ごとの粗利を構成している商品単価と販売数量の目標設定がしやすく、管理が楽になります。

 五十日の資金繰り表と日繰り表(毎日バージョン)は、どちらか一つを作成すればいいと思います。

 五十日や日繰り表は、ひと月の内、いつの時点で一番現預金残高が少なくなるかを把握することができ、本当の会社の体力を知ることができます。

 これらの資金繰り表作成による現預金の推移が把握できれば必要な総粗利額や商品1つあたりの粗利額もわかり、それに材料費等を加えると商品ごとに必要な売価や必要な販売数量がわかります。

 資金繰り表作成は業種を問わずすべての中小企業が活用できる万能な倒産防止戦略の出発点なのです!

五. 最後に

 どうしても3か月後に現預金がゼロになる見込みである場合は、なるべく早めに破産を専門分野としている弁護士に相談するようにしてください。

 破産は、「やぶって、うまれる。」と書きます。幸い日本には破産法という法律があり、負債を返済できなくても、一旦免責されてゼロになるというありがたい法律があります。免責されると、負債を返済する必要がなくなり、再生が可能となります。

 もう一度商売を始めることも自由ですし、お勤めされることも自由です。破産開始決定後に取得した財産は、すべて自分の財産であり、もはや債権者に配当する必要もありません。

 一度破産しても、5年経てば信用情報も抹消されますので、安定した収入があればもう一度自宅をローンで購入することも可能です。

 最初は現金商売から始める必要がありますが、商売で成功すれば、再度借り入れをすることもできるのです。

 そうです、破産法は、再生のための法律であり、破産は、この世の終わりでも、地獄の入り口でもありません。

 もう一度再生し、経済を再建し、ご家族を幸せにできるのです。

 だから、皆さんにくれぐれも忘れていただきなくないのは、「借金ぐらいで、決して自殺しようと考えてはならない。」ということです。

 では、最後に、「この原稿が、お読みいただいた方やそのご家族、お客様などの企業の再建や人生の再建の一助となれば大変幸甚です。ありがとうございました。」

以上

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